Ｑ２　商標登録がされるとどんな効力が発生するのですか？
　商標が特許庁において設定登録されると、商標権が発生し日本全国においてその商標と同一範囲の商標の独占的使用が認められ、なおかつ、その商標と類似範囲にある商標を他人が使用することを禁止する権利が認められます。つまり、その商標の類似範囲まで独占的に使用できるようになります。そして、商標が設定登録されるとその後１０年間商標権が存続し、さらに１０年毎に更新登録をし続けることによって実質的に半永久的な権利が得られます。

Q３　どうして商標登録をするのですか？
　新しい商品、新しいイベント、新しいサービス、新しい施設、新しい会社等を興こしても、その商品名、イベント名、サービス名、施設名、会社名等と同一又は類似する商標を第三者が商標登録し、かつ、その第三者の商標権の指定商品又は役務が自己の商品や業務内容と同一又は類似する場合は、自己の商品名、イベント名等を使用するとその第三者の商標権の侵害となり、第三者からライセンスを受けられないときはその商標の使用をやめなければなりません。そうなると、それまで費やした宣伝広告費用が無駄になるばかりでなく、看板の撤去等無用な費用が発生します。また、当初は自己の商標と同一又は類似する商標が特許庁において登録されていなくとも、自己の商標を使用し続けていく過程で、第三者がその商標と同一又は類似する商標をその商品や業務内容に類似する役務を指定して特許庁に出願し登録された場合は、その第三者が商標登録を受けた後はやはり商標権の侵害となり、ライセンスを受けられないときはその商標の使用をやめなければなりません（ただし、自己の商標が全国的或いは複数県にまたがって広く知られている場合はその範囲での使用の継続が認められる場合があります）。もし第三者の商標が登録された後までその商標を使用し続けると損害賠償等を請求されるおそれがあります。
　このように、商標登録しないまま商品名、イベント名、サービス名、施設名、会社名を使用することは常に商標権侵害の可能性がつきまとい、その商品名等に信用がつきブランドとして財産的価値を有するようになっても、突然その商品名等の使用をやめなければならない事態になりかねないのです。したがって、商標登録することは単に独占的にその商標を使用できるメリットがあるだけではなく、その商品、イベント、サービス、施設、会社等を今後安心して発展させていく上での保険的役割も有しています。実務的観点から言えば、毎年十数万件もの商標出願がなされるのは背景にこのような理由があるからでしょう。ただし、実務家の立場としてさらに言えば、新しい商品、イベント、サービス、施設、商号等の総てを商標出願してはコスト面で大きな負担がかかりますので、商標調査のみ行う場合と商標調査後に商標出願も行う場合とをうまく使い分ける必要があると思います（この点については「商標出願すべきか否かの判断基準」別ページ参照）。なお、近年企業のブランド戦略が重視されるに当たって、商標登録をする目的に新しい傾向が見受けられます。企業には顧客や社会に社名や商品名等の自社ブランドをこう連想してほしいといういわゆるブランドアイデンティティがあり、実際に顧客や社会が抱いているブランドイメージをそのブランドアイデンティティに少しでも近づけようと、莫大な費用を投じて日々努力がなされています（その手段はテレビCM、新聞広告、ウェブサイト運営、販売接客態度等様々です）。その際、同類業者で自社と似たような商号（社名）や商品名等をもつ会社や商品等があれば、懸命なブランド戦略を展開しても顧客が抱く自社や自社商品等のブランドイメージのコントロールが困難になってしまい、上記のような莫大な費用を投じた効果が減殺してしまいます。このように積極的なブランドイメージ戦略の観点から商標出願されるのも最近の傾向のように思います。詳しくは後述の「Ｑ７　なぜ商号（会社名）も商標登録するのですか？」を参照して下さい。

Q４　商標登録するにはどうしたらよいのですか？
　商標登録するには商標調査をした後、特許庁に対して、商標とその商標を使用する商品又はサービス（役務）及びその商品又はサービス（役務）が属する区分を指定して商標出願をします。そして、特許庁審査官による審査をクリアして初めて商標登録がなされます。審査官がどのような審査をするかの詳細は次項の「Q５　どのような商標が登録されるのですか？」をご覧下さい。なお、出願方法は電子出願（オンライン出願）が一般的に使われますが、書類による出願もできます。

Q５　どのような商標が登録されるのですか？
　我が国の商標法は審査主義を採用していますので、商標法が規定する登録要件を総て充足した商標のみが登録されます。商標法は以下の規定に該当する商標はその出願を拒絶するとしています。
（１）識別力がない商標（商標法３条１項柱書１号乃至６号）
次の１号乃至６号に該当する商標は識別力がない商標として登録されません。
実務では、先願先登録商標の引用（第４条１項１１号）の拒絶理由に次いで多く指摘される拒絶理由です。ただし、これに該当しても登録される例外規定が有ります（商標法3条2項、後記参照）。
　　１号）商品又は役務の普通名称
　　　　　原則としてその商品又は役務の略称、俗称等も含まれます。
　　　該当例
　指定商品「自動自転車」について商標「バイク」・・・・略称
　指定商品「しょう油」について商標「むらさき」・・・・俗称
　指定役務「質屋による資金の貸付について商標「一六銀行」・・俗称
　　２号）慣用商標
　　　　　「慣用されている商標」とは、同種類の商品又は役務について同業者間において普通に使用されるに至った結果、他人の商品又は役務と識別できなくなった商標をいいます。
該当例　　　指定商品「清酒」について商標「正宗」
　　３号）産地、販売地、品質表示等
　　　　　該当例　　　指定商品「自動車」について商標「デラックス」・・・品質表示
　　　　　非該当例　　指定商品「浴用石鹸」について商標「バスミルク」（平２拒1065号）
　　４号）ありふれた氏又は名称
　　　　　該当例　　　指定商品（役務）にかかわらず「鈴木」・・・ありふれた氏
　　　　　非該当例　　指定商品（役務）にかかわらず「森田ゴルフ株式会社」（東京高判平7･6･13）
　　５号）極めて簡単で、かつ、ありふれた標章
　　　　　該当例　　　１本の直線や平仮名１字
　　　　　非該当例　　指定商品（役務）にかかわらずローマ字2字を「＆」で結合した商標（特許庁審査基準）
　　６号）その他、識別力がないもの
　　　　　該当例　　　指定商品（役務）にかかわらず「高級被服」

　　例外規定（商標法3条2項）
前記した1号から6号に該当しても商標の使用により一般に広く知られ、識別力を有するに至った商標は登録されるという特例があります。実務においては、企業のネーミング戦略上、敢えて商品等の機能をアピールするために本来識別力のない商品等の機能や品質のみを表した商標を使用し、その後の宣伝広告等によりその商標に周知性を獲得させ、この例外適用を受けることもあります。　
適用例　　（株）ニシキベーカリーの「ミルクドーナツ」
　　　　　　アサヒビール（株）の「スーパードライ」
　　　　　　日本ハム（株）の「ニッポンハム」
　　　　　　熊本県果実農業協同組合の「ジューシー」
　　　　　　など
（２）国旗等と同一又は類似の商標（商標法4条1項1号乃至６号）
　　　　　　該当例　　　菊花紋章と同一の商標、白地赤十字の標章と同一の商標、外国国旗と同一の商標、国の機関を表示する標章で著名なものと類似する商標等
（３）公序良俗に反する商標（商標法4条1項7号）
　　　　　　該当例　　　卑わいな文字又は図形の商標
（４）他人の氏名や著名な雅号、芸名、筆名若しくはこれら著名な略称を含む商標（ただし、本人の承諾がある場合は除く）（商標法4条1項８号）
　　　　　　該当例　　　音楽関係の指定商品（役務）について商標「ひばり」
※ 音楽関係以外の指定商品（役務）であれば本号には該当しないでしょう。
（５）政府等が開設する博覧会であって特許庁長官が指定するものの賞と同一又は類似する商標（商標法4条1項９号）
（６）未登録の周知商標と同一又は類似する商標で指定商品（役務）も同一又は類似する商標（商標法4条1項１０号）
　　　　　　　該当例　　　指定役務「串カツ料理の提供」について「串の坊」
（７）先願先登録商標と同一又は類似する商標で指定商品（役務）も同一又は類似する商標（商標法4条1項11号）
　　　　　　　実務では最も多く指摘される拒絶理由です。商標の類似は、商標の外観、称呼及び観念を総合的に考慮して判断されます。指定商品（役務）の類似の判断は、特許庁審査実務では類似群コードによって予め定められているのが実際です。
　　　　　　　該当例　　　「VENT VERT／ヴァンヴェ−ル」と「バンベール」・・・称呼類似
　　　　　　　該当例　　　「白山雲竜」と「雲龍」・・・称呼観念類似
（８）他人の登録防護標章と同一の商標でその防護標章登録の指定商品（役務）と同一の商標（商標法4条1項12号）　
　　　　　　　※「防護標章」とは簡単に言えば登録商標が著名になったものと認識してもらえばよいでしょう。
（９）商標権が消滅した日から1年を経過していない他人の商標と同一又は類似し指定商品（役務）も同一又は類似する商標（商標法４条１項１３号）
　　　　　　　ただ、他人が商標権が消滅した日前１年以上使用しなかった場合は本項は適用されません。
（10）種苗法によって品種登録を受けた名称と同一又は類似する商標でその品種の種苗又はこれに類似する商品（役務）に使用する商標（商標法4条1項14号）
（11）他人の業務にかかる商品（役務）と混同を生ずる虞がある商標（商標法4条1項15号）
該当例　　　指定商品「菓子」について商標「SONY」（昭40・10・20審決）
（12）商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標（商標法4条1項16号）
　　　　　　　該当例　　　指定商品「香水等の化粧品」について商標「ワイキキ」（最判昭54・4・10）　ワイキキで生産販売される商品であるかのように誤認する
（13）世界貿易機関の加盟国等のぶどう酒等の産地を表示する標章のうち、当該産地以外の地域を産地とすることが禁止されているものを有する商標で当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒等について使用する商標（商標法4条1項17号）
（14）商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標（商標法4条1項18号）
（15）我が国又は外国で広く知られた商標と同一又は類似する商標であって不正の目的をもって使用をする商標（商標法4条1項19号）
　　　　　　　該当例　　　周知著名商標が日本国特許庁において商標登録されていないことを知り、他人に法外な値段で買い取らせようとする目的で先取り的に出願された商標
（16）指定商品（役務）の区分の指定が政令で定められたものに従っていないもの等（商標法6条）
（17）その他条約の内容に反するもの
　　　　条約と国内法では条約のほうが優位であるとするのが通説であるため規定されたものです。ここで、条約とは主にパリ条約を指しています。

Q６　なぜ事前商標調査は必要なのですか？
　　「Q４　商標登録するにはどうしたらよいのですか？」で説明したように、商標登録するためには特許庁に商標出願をしなければなりませんが、商標出願をする前に事前商標調査をすべきです。事前商標調査をしないで商標出願すると、特許庁の審査により出願した商標が登録を拒絶されたときは、それまでに支出した出願手数料等がすべて無駄になってしまいます。さらに、商標出願と同時にその商標の使用を開始する場合が多く、かつ特許庁の審査には約8ヶ月から1年くらいかかりますので、仮に1年後に特許庁の審査で、出願した商標が他人の登録商標に類似するとの理由で登録を拒絶されたときは、その商標を変更しなければならず、それまでに投下した宣伝広告費等が無駄になってしまいます。したがって、新しい商品名、イベント名、サービス名、施設名、商号案が提案された際に、その商標の登録可能性や他人の商標権を侵害していないかを判断するための商標調査が必要となります。また、近時の企業の知的財産戦略の傾向として、他人による商標権侵害行為をしばらくは黙認しておき、他人がその商標に相当な広告宣伝費を投下して、その商標を一般に認知させてから商標権侵害を主張するケースが増えています。このような傾向からも商標調査は不可避的なものになっています。

Q７　なぜ商号（会社名）も商標登録するのですか？
　自社の商品（またはその包装）や広告に、それが自社の業務にかかる商品やサービスであることを表示するために商号（社名）を表示すると、その商号は商標として使用されたことになります。例えば、住友商事株式会社が自社の商品やサービスの提供者として「住友商事株式会社」とか「住友商事」と表示したときは、その表示は商号であると同時に商標となります。そして、このように自社の商品やサービスの提供者の表示として商号が使用されることはよくありますので、商号は商号登記とは別に商標登録をしておく必要があります。さらに、商号登記の法的効力は同一市町村区内に限られるところ、会社の営業活動は通常は同一市町村区内を超えて複数県から全国に渡って展開され、さらにインターネット上で全国に対して宣伝広告や取引が行われますので、商号登記による保護だけでは不十分です。この点、商標登録の法的効力は日本全国に及びますので、商号を商標登録すれば日本全国において商号の独占的使用を確保できます。このように商号（社名）を商標登録する目的は、他人の商標権の侵害を回避し、日本全国に渡って自己の権利を確保するためのものでした。しかし、最近ではその目的が少しずつ変化し、企業のブランド戦略の一環として商号の商標登録がなされています。すなわち、企業としては顧客や社会に自社ブランドをこう連想してほしいといういわゆるブランドアイデンティティがあり、実際に顧客や社会が抱いているブランドイメージをそのブランドアイデンティティに少しでも近づけるために、莫大な費用を投じて日々努力がなされています（その手段はテレビCM、新聞広告、ウェブサイト運営、販売接客態度等様々です）。その際、同類業者で自社と似たような商号（社名）の会社があると、懸命な自社ブランド戦略を展開しても顧客が抱く自社ブランドイメージのコントロールが困難になります。特に大企業は多角経営の可能性があるので、異分野の業種に自社と同じような商号（社名）が存在する場合にも、自社ブランドイメージのコントロールが困難になります。また、近年、新商品に個別の商標と商号商標を抱き合わせ的に使用する手法が有効なブランド戦略として機能しています。これは、新商品の個別商標を商号商標とともに表示することで、新商品の認知度を向上させ、かつ品質保証機能を与える効果があり、さらに新商品がヒットすることで商号がより周知になるというシナジー効果を生むメリットがあるからです（ただし、新商品が市場において不評であったときは商号もそのイメージ低下を受ける関係にあり、諸刃の剣であることは付言しておきます）。このようなことからも、商号の商標登録は企業の経営戦略上大変重要なものなのです。予算の関係もありますので、総ての商品、サービスについて商標出願する必要はないと考えますが（この点については「商標出願すべきか否かの判断基準」を参照して下さい）、自社の商号を商標登録することは非常に重要だと考えます。

Q８　®、TM、©マークはどう違うのですか？
１．
　®マークはRegisteredの略で、厳密には米国での商標登録済みという意味で、日本国において商標登録されたことを意味するものではありません。ただ、実際には日本国において商標登録済みという意味で使用されているケースが多いです。我が国商標法７３条は、訓示規定として、商標権者はできるだけ商標登録表示を付するように努めなければならないと規定していますから、商標権者は「商標登録第○○○○号」のような表示を付するように努めるべきです。
２．
TMマークはtrademark（商標）の略で、登録されているいないにかかわらず、商標であることを意味します。このTMマークについて直接規定した法律はありません。
３．
©マークはcopyrightの略で、著作権表示として慣習的に使用されています。©マークは、万国著作権条約のみに加入している国における方式要件を満足したものとの意味がありますが、我が国著作権法は著作権者がその著作物につき著作権を享受するために何らの方式を必要としていませんので（無方式主義）、©マークを表示しないから著作権が保護されないということはありません。

Q９　商標登録手続きの全体の流れはどうなっているのですか？

商標登録の手続きの流れは以下のとおりです。
　なお、２００２年度の平均審査期間は約９ヶ月でした（特許庁2003年次報告書より）。２００４年現在は審査期間の短縮化が進んでいるようで約６ヶ月程度で審査結果が通知されています。