法的観点からのブランド知財戦略

　
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１．ブランド知財の重要性
（１）「ブランド」とは何か
　「ブランド」の語源は古ノルド語で「焼印を付けること」を意味する“brandr”とされ、「ブランド」は狭義の意味で「商標」を意味するものです。我が国商標法は、「商標」とは「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であって、業として商品を生産等する者がその商品について使用するものや、業として役務を提供等する者がその役務について使用するもの」と定義しています。また、米国マーケティング協会は「ブランド」とは「ある者あるいはある者の集団の製品及びサービスを識別し、競合他社の製品及びサービスと差別化することを意図した名称、言葉、サイン、シンボル、デザインあるいはその組み合わせ」と定義しています。
　しかし、現実の経済界では「ブランド」の語は上記のような意味で使われることは少なく、やや抽象的になりがちですがもっと広い概念として捉えられています。例えば産業構造審議会商標制度小委員会では「ブランド」とは「商品・サービス、さらには企業そのもののイメージの総体」とされています。また、「ブランド」が無体物の財産権であることから、「ブランド・エクイティ（ブランド資産）」の定義付けも盛んに行われています。ブランド論の権威デビット・アーカー氏は「ブランド・エクイティ」とは「製品やサービスによって、企業あるいは当該企業の顧客にもたらされる価値を増減させる、ブランド、名称、シンボルと結びついたブランドの資産と負債の集合」と定義付けています。「ブランド」は企業の重大な無形資産であることは間違いないのですから「ブランド」と「ブランド・エクイティ」の概念は非常に近似するものであり、その意味で上記のどちらの定義も広義の意味での「ブランド」の定義に相応しいものでしょう。

（２）知的財産権、特にブランドが重視されるに至った背景理由
①知的財産権が重視されるに至った背景理由
　　端的に言えば社会における価値の基盤が有体物から無体物へ移行しているという状況において必然的に知的財産権の価値も重視されるに至ったと言えます。
　　従来の日本の産業はコスト競争力を武器に競争優位を維持してきました。しかし、低廉な人件費と急速な技術力の向上による近年のアジア諸国の台頭により、日本の産業競争力は伸び悩みました。また、アジア諸国との対比のみならず他の先進諸国との競争をする上でも、他との“差別化”が必要になりました。そのためには画期的な製品やサービスを持続的に創造することが要求され、人間の頭脳による知的創造活動による付加価値化が産業競争力を大きく左右するようになります。現在では知的創造活動自体が産業競争力を形成する源泉であるという認識が高まり、実際に政府をはじめ多くの企業が知的財産政策を打ち出し、その中で“知”の財産化を図っています。
　　このように社会がいわゆる知識経済化する中で“知”の価値が重視されるに至り、人間の知的創造から生まれる無体物たる知的財産権も重視されるに至ったわけです。

②ブランドが重視されるに至った背景理由
ⅰ）価格優位の獲得
　技術力が高度成熟化（成熟化といっても技術の進歩発展が止まることはもちろんありません）した現在では商品やサービス自体の機能や品質で他社との差別化が困難となっているため、各企業の商品やサービスの価格が横並びになってしまいます。それにより企業は必然的に価格の値下げ競争により利益を確保せざるを得なくなり長期的には自らの首を絞めることになります。しかし、他社の製品やサービスと機能や品質が同等であっても強いブランドがあれば例え他社の製品やサービスの価格より高くても消費者はそのブランドを好んで選択して購入します。このようにブランドは価格競争を回避するとともに企業の利益の源泉となっており、そういった認識が経済界に浸透しつつあります。
ⅱ）ブランドの資産価値への注目
　強いブランドは企業に大きな収益率と利益率をもたらしその結果株主に大きな価値を生み出すという考えのもと、欧米を中心とする1980年代以降のＭ＆Ａ（合併や統合）ブームによりバランスシート（貸借対照表）に載らないブランドの資産的価値が注目されるようになりました。このこともブランドが重視されるようになった理由の一つでしょう。また、それに伴い様々なブランド資産評価基準の議論が盛んに行われるようになっています。
ⅲ）模倣の困難性
　商品の製造方法やデザイン或いはビジネスモデルは物理的には容易に模倣が可能ですが（特許権、意匠権がある場合は別）、多大な費用と時間をかけたマーケティング活動によって消費者により形成されたブランドイメージは容易に模倣再現できるものではありませんから、ブランドは企業の重要な資産であり武器であるという認識が高まってきました。なお、単なる名称、言葉、サイン、シンボルの模倣は物理的には容易ではありますが、当然に商標権によって保護されます。
ⅳ）ブランドの露出機会の拡大
　コンビニエンスストアの急速な発展に見る小売業者の発達、インターネットの普及、法律の規制緩和等によって、ブランド（狭義）が消費者にダイレクトに露出する機会が急速に増大しています。すなわち、ブランドの選択が消費者にとってより自由になったことで企業にとってブランドの重要性が増してきたのです。
ⅴ）有体物から無体物への価値基盤の移行
　上記した知的財産権の重要性増大での説明の繰り返しになりますが、社会の価値基盤が有体物から無体物へ移行しているという大きな底流があることもやはりブランドが注目されるに至った背景理由です。

２．知的財産権法における‘ブランド’の位置づけ

（１）知的財産権法及び関連法の簡単な紹介
　①特許法
　　新たな発明をした者が、特許庁にその発明を特許出願しその内容を社会に公開させることで、社会の技術水準を向上させる一方、出願人には発明公開の代償として一定期間その発明の独占排他権を付与することで、発明の奨励を促し、もって産業の発達を図ることを目的とする法律です。
　②実用新案法
　　特許法とほぼ同様の法律ですが、一般に特許法で保護される発明より技術的レベルの低い考案を保護対象とする法律です。
　③意匠法
　　制度趣旨は特許法と似ていますが、その保護対象は物品のデザインであり技術を保護対象とする特許法と異なります。また、出願してもその内容は登録されるまで公開されません。なお、デザインについての関連法は他に不正競争防止法や著作権法があります。
　④商標法
　　自他との識別標識（以下、「商標」という）を使用し続けるとその商標には業務上の信用が化体します。これを保護するのが商標法でありその手段は特許法と同様で商標権者に独占排他権を付与することによります。商標権は権利効力の及ぶ範囲が同一のみならず類似範囲まで及ぶこと、権利存続期間が半永久的であること等が特許権と異なります。
　⑤不正競争防止法
　　事業者間の公正な競争を確保する等の目的とする法律で代表的なものとして次の規定が挙げられます。
　ⅰ）商品等表示の混同惹起行為及び著名表示冒用行為
　　詳細は後記します。
　ⅱ）商品形態模倣行為
　　近時の法改正で導入された規定であり商品のデザインの模倣を禁止する規定です。この規定によって自社商品のデザインが模倣された場合には、例え意匠権を有していなくても模倣者に対し模倣品の販売禁止や損害賠償請求が可能となりました。ただし、模倣品が自社の商品と実質的に同一であること、模倣行為が自社の商品を最初に販売した日から3年以内であること等が要件とされます。
　⑥著作権法
　　人間の知的創造活動によって生まれたものを保護する法律ですが、その目的は主として文化の発展であり産業の発達を目的とする特許法等とは異なります。また、上記特許法、意匠法等で保護されるものについては著作権法の保護対象外となります。例えば、量産される工業製品のデザインであれば意匠法や不正競争防止法で保護されるものであり著作権法の保護対象外ですが、一品製作物としての彫刻であれば著作権法の保護対象になります。
　⑦商法
　　商事についての基本的法規を定めた法律であり知的財産権法としては位置づけられていませんが、後記しますようにブランドに関連する規定を一部有しています。
　⑧その他
　法律で明文をもって定められた権利ではありませんが、上記以外にも知的財産権関連として以下の権利が挙げられます。
ⅰ）肖像権
肖像権とは、法律で明文をもって定めたられた権利ではなく、判例上認められている権利です。肖像権は、人格権的側面と経済的側面の両面を併せ持つ権利といえます。人格権的な側面からは、みだりに自分の肖像を写真等に写されたり描かれたりすることを拒絶する権利であるといえます。経済的な側面からは、写された、或いは描かれた自分の肖像の商業的・営利的な利用をコントロールする権利（報酬を得て他人に利用させる権利を含む）であるといえます。
また、一般的には、この経済的側面からの肖像権をパブリシティ権といいます。ただし、肖像以外に「もの」（例えば、競走馬の名称やガス気球）に関してパブリシティ権を認めた判例もあります。
ⅱ）商品化権
商品化権とは、商品の顧客吸引力を増大させるために、漫画やアニメ等のキャラクターやテレビドラマ・映画のタイトル等を利用させる権利をいいます。たとえば、「鉄腕アトム」や「ちびまるこちゃん」「サザエさん」の文字や登場人物の似顔絵には商品販促効果がありますが、これらを商品に利用させる権利が商品化権です。商品化の対象になるものは、アニメのキャラクターやタイトルの他に、実在する人物や動物、建築物等でもよいです。

（２）‘ブランド’に関連する法律
　①商標法
　　商標法の保護対象は商標に化体した業務上の信用ですから“ブランド”の語を狭義に解しても広義に解してもまさにブランドを守るための法律と言えるでしょう。商標権の排他的効力は登録されている商標と同一範囲のみならず類似範囲にまで及び、その地域的範囲も日本全国に及ぶ強力な効力です。さらには、商標権に基づく差止請求や損害賠償請求等の権利行使の局面においても商標権侵害の立証は、自己が商標権を有していること、相手方の商標が自己の商標と同一又は類似していること、相手方の商品又は役務が自己の指定商品又は役務と同一又は類似していることを立証すれば足ります。しかも、商標法は相手方の過失を推定する規定等の商標権者に有利な規定が多数盛り込まれています。また、自己の商標が特許庁の原簿に登録されることにより財産として明確に把握できることになり、当該ブランドの資産価値を増大する役割を持つ法律としても機能しています。
　②不正競争防止法２条１項１号及び２号
　　公正な競争を確保する観点から、商品等表示（商標を含む識別標識として機能するもの）の混同惹起行為及び著名表示冒用行為を禁止しています。混同惹起行為とは全国的に広く知られた商品等表示と同一又は類似する表示を使用することで周知商品等表示と混同を生じさせる行為を言います。また、著名表示冒用行為とは例え混同が生じなくても著名な商品等表示と同一又は類似する表示を使用し、著名な商品等表示に信用のただ乗りをする行為等を言います。ただし、これらは全国的に広く知られた商品等表示に限られ、特に著名表示冒用行為の著名性は日本を代表するような大企業の名称相当の高い著名性レベルが要求されます。また、損害賠償を請求する局面においては周知著名性の立証の判断時は不正競争行為時ですから証拠の収集は困難かつ煩雑なものとなります。
　③商法２１条
　　商法は商事についての基本的法規を定めた法律ですから、ブランドについて直接関連する法律ではないのですが、商標２１条は、不正の目的をもって他人の営業なりと誤認せしむべき商号を使用する行為を禁止しています。ここで「不正の目的」とは、一般公衆に自己の営業を他人の営業と混同、誤認させて競争しようとする目的、さらに他人の支店登記を妨害する目的で支店予定地に同一名称の会社を先回りして設立するような場合も含むとされています（最高裁判決昭和３６・９・２６、東京瓦欺事件）。ただし、この商法２１条に関する裁判例は非常に少なく、この規定は実務でもあまり利用されません。

３．法的観点からのブランド知財管理の方法

（１）ブランドの権利漏れのチェック及び法的権利の確立
　　自社所有ブランドの権利化（防護を含む商標権の取得）は自社所有資産を明確に把握でき、法的観点からはブランドの管理を容易にさせます。また、ブランドにただ乗りするいわゆるフリーライドやブランドの識別力を希釈化させるいわゆるダイリューション（例えばサングラスに商標「ポルシェ」を使用）、ブランドを汚染化させるいわゆるポリューション（例えばラブホテルに商標「シャネル」を使用）といったようなブランドの信用毀損行為を抑制させる効果もあります。さらには、ブランド評価を業務とする著名企業ではブランド評価におけるブランド力の査定において、ブランドの防御の強さは商標権に依拠するとの考えのもと、ブランド力の決定要因の一つとして当該ブランド所有者の法律上の権利の有無を挙げています。したがって、商標権確立行為（商標権の取得）そのものによっても当該ブランドの資産的価値は増大するのです。
　　以上のようにブランドの法的権利の確立は重要であり、そのためには現在自社が所有している商標権を把握し権利の漏れがないか確認をする必要があります。そして、漏れがあるならば直ちにその穴を埋めなければなりません。この大まかな作業手順は以下のとおりです。
　①商標類似群マップの作成
　　商標実務では総ての商品又は役務（サービス）は特許庁が定めるいずれかの類似群コード（およそ７００コードあります）に割り振られます。そこで、総ての類似群コードが記載された一覧表を作成します。
　②当該ブランドの権利の所有範囲の把握と所有すべき範囲の決定
　　当該ブランドが現在所有する商標権の類似群コードの範囲を把握し、一覧表にある該当する類似群コード部分を塗りつぶす或いはチェックを入れます。次に、今後商標権を所有すべき範囲を決めるため、現在使用している範囲の類似群コード、将来使用予定である範囲の類似群コード、使用予定はないが第三者に使用されたくない範囲の類似群コード部分に前者（現在所有する商標権の類似群コード）と異なる色で塗りつぶす或いは異なるパターンのチェックを入れます。
　③権利漏れ部分の把握
　　②の作業によって明らかになった現在所有する権利範囲と権利を所有すべき範囲を重ねることで、両者が重複していない部分が権利の漏れ部分であることが分かります。
　④権利漏れ部分の権利取得方法
　　我が国商標法では防護標章登録制度という特別な制度を設けているため、この制度を効率的に活用することが必要になります。防護標章登録制度とは自社のブランドを現在或いは将来に亘って使用する予定のない商品またサービスの範囲についても独占排他的な効力を付与し保護する制度です（商標法は現在又は将来においても使用予定の無い商標は保護しないというのが建前であり、防護標章登録制度はこの特例であると言えます）。但し、防護標章登録の場合は通常の商標登録と登録要件が異なり、その出願対象となる商標が著名であること等の要件が充足されないかぎり登録されません。したがって、権利取得に当たっては通常の商標出願と防護標章出願とをうまく使い分けることが肝要です。具体的には主として以下のパターンに分けられると思います。
　ⅰ）当該ブランドが著名である場合
　　権利漏れ部分のうち、現在又は将来使用する商品又はサービスについては通常の商標出願をし、将来においても使用予定がない商品またはサービスについては防護標章出願をします。
　ⅱ）当該ブランドが著名というほどではないが周知である場合
　　権利漏れ部分のうち、現在又は将来使用する商品又はサービスについては通常の商標出願をし、将来においても使用予定がない商品またはサービスについては防護標章出願をします。特許庁において当該ブランドが著名でないと判断され防護標章出願が拒絶されたら、通常の商標出願に出願変更をします。
　ⅲ）当該ブランドがあまり知られていない場合
　　権利漏れ部分は総て通常の商標出願をします。

（不使用商標の問題）
　防護標章登録を取得した場合は別ですが、通常の商標登録を取得しても、不使用期間が長い未使用商標の商標権の権利行使は認められるべきではないという意見がありますが、あくまで少数説であり、未使用であることのみをもって権利行使が認められないことはありません。これは判例も認めるところです。このような場合、権利行使された側は不使用取消審判を請求することで（当該商標が３年以上使用されていない旨を主張、これに対し商標権者は３年以内に当該商標を一度でも使用したことを立証すれば取消しを免れる。）当該登録商標を取消すことができますが、取消の効果は審判請求の予告登録日に遡及するまでで、当該商標がはじめからなかったものとされるわけではありません。したがって、審判請求の予告登録日前について当該商標が不使用であっても、商標権者は少なくとも使用料相当額は相手方に請求することができます。
通常、ブランド（商標）が使用されていない商品やサービスについても第三者の使用を排除したいケースでは、当該ブランドは著名であることが多いので、不使用範囲については防護標章登録を取得すればこの問題は解決されますが、ブランドが著名でない場合は防護標章登録を取得することができません。
当該ブランドがそれほど有名でなく、かつ今後使用予定のない商品やサービスについて当該ブランドと同一又は類似する商標を第三者に使用されたくない場合は、やはり通常の商標登録を取得することになります。上記のように不使用であってもそのことのみをもって権利行使が認められないことはありませんし、当該登録商標と同一又は類似範囲において第三者が商標権を取得するができないのはもちろんであり、商標権を有していることで第三者に対しての相当な使用抑制効果も見込まれます。不使用取消審判というカウンター攻撃の問題は残りますが、メリットとデメリットを比較衡量すれば使用予定のない商品やサービスについて第三者に使用されたくない以上は通常の商標登録を取得することも賢明な策といえます。

（２）ブランドの監視
　①自社所有ブランドと同一・類似商標の出願・登録情報の定期的ウォッチング
　　自社所有ブランドが特許庁において商標登録を得た場合は、その後第三者が当該ブランドと同一又は類似する商標を出願しても拒絶されます。しかし、商標権者から見れば類似すると思われる商標であっても、特許庁の審査官から見れば非類似だと判断され、当該ブランドと類似する商標が登録されてしまうケースがあります。また、特許庁審査官といえども人間ですから単純に審査ミスを犯し当該ブランドと同一又は類似する商標を登録してしまうケースもあります。こういった事態に対処するために企業は定期的に自社所有ブランドと同一又は類似する商標が出願或いは登録されていないかを監視する必要があります。具体的にいいますと、同一又は類似する商標が出願された段階では情報提供制度を利用し、その出願は自社の登録商標と同一又は類似するから登録されるべきでない旨の意見書を特許庁に提出します。万が一、その商標出願が登録されてしまった場合は異議申立て制度を利用し、この出願は自社の登録商標と同一又は類似するから本来拒絶されるべきものである旨を主張し、特許庁に当該商標登録の異議の申立てをします。また、監視に負担をかけたくなければ情報提供制度は利用することなく第三者の商標の登録情報のみ監視して必要に応じて異議申立て制度を利用するのも一つの策です。この監視については自社の知的財産部が担当します。知的財産部を持たない企業であれば特許事務所に委託すればよいでしょう。それほど費用はかからないはずです。
②インターネット上での監視
　　自社所有ブランドと同一又は類似する範囲で第三者が商標を使用している事実を最も容易に発見できる手段はインターネットを利用することです。当該ブランドが商号商標であればウェブサイト「ⅰタウンページ」において検索することができます。また、文字商標であればその商標名と指定商品（役務）を検索エンジン（例えばYAHOO）で文字検索すればよいです。当該ブランドが図形商標であればその図形商標が使われるブランド名と指定商品（役務）をイメージ検索可能な検索エンジン（例えばGOOGLE）でイメージ検索すればよいでしょう。
　　ただし、ここに挙げた方法は同一範囲の商標しか検索できず、またその精度も低いです。現在ではインターネット上でのブランド監視ソフトが専門業者によって販売されていますのでこれを利用するのもよいでしょう。
③実際の取引市場の監視
　　自社所有ブランドと同一又は類似の商品（役務）分野における第三者の商標の無断使用は、通常の営業活動をしていれば自然と発見できるものです。しかし、異業種における商標の無断使用の発見は、その無断使用の規模が小さければ小さいほど困難です。これを解決するための完璧な方法は残念ながらありません。最善の措置としては、上記した②の方法を充実させる、或いは全社員に無断使用を発見した場合は必ず報告するように常日頃から呼びかけることが必要です。
④使用権者の監視
　　自社所有ブランドを自社の関連会社等にライセンス（商標の使用の許諾）するケースは多々あります。この際、ライセンス契約条項には自社のブランド戦略に沿うよう様々な条項が盛り込まれます。そして、ブランド管理の一環として、ライセンサー（商標権者）はライセンシー（使用権者）がライセンス契約後も適切にブランドを使用しているかを監視しなければなりません。特に商標法の観点から言えば、ライセンシーが不正な使用をした場合には当該商標権が取り消されてしまう可能性があります（商標法５３条）。また、不正な使用でなくとも当該ブランドに変更を加えて使用した場合には、やはり当該商標権が取り消されてします可能性があります（商標法50条）。即ち、ライセンサーには何ら責任がなくともライセンシーの行為によって商標権が取消されてしまう危険があるのです。したがって、ライセンサーはライセンシーのブランド使用を注意深く監視し、必要であれば定期的にブランド使用の報告書を提出させるよう義務付けてもよいでしょう。

（３）ブランドの普通名称化の防止
当初商標が使用され自他商品等との識別力を有していても、その商標が著名になると取引者間でより広く使用されることで、商品の慣用的な名称となり、普通名称化することがあります。普通名称化した商標は自他商品等識別機能を有さず商標権の効力が消滅するため（商標法２６条）、商標が普通名称化するということは、商標に化体した業務上の信用が無くなり商標権としての財産的価値を失うということです。したがって、有名商標については普通名称化を防止すべく適切な商標管理が要請されます。なお、普通名称化を判断した審決として以下のものが挙げられます。
・「セロテープ」（昭和３９．２．２０，昭３５審３６（３７３－７１））
・「清水焼」（昭和３９．１．１４，昭３６抗３２（３７３－１１７））
・「サニーレタス」（昭和６０．８．６，昭５７審２９３６（２６８０－５１））
・「チューハイ」（昭６２．１．２６，昭５８審１３０２４（２９０４－９５））
①普通名称化の原因
　普通名称化の典型例は以下の3つに分類されます。
ⅰ）卓越した機能や品質を有する場合
自社の商品が同種商品（役務）の中で極めて優れているため商標が著名化し、取引者間で自社の商標が同種の商品の代名詞の如く使用されるようになり、識別力を失い普通名称化する場合。
ⅱ) ブランド管理の不徹底
著名商標にフリーライドする目的で第三者がその商標を使用し、商標権者がこれら使用に対し何ら権利行使することなく放置した結果、多数の同業者が広範囲に使用するようになり、識別力を失い普通名称化する場合。
ⅲ) パイオニア商品である場合
その分野においてこれまで存在しなかった商品（役務）であるため、需要者間では当該商標がその商品の普通名称であると認知され普通名称化する場合。
②普通名称化の防止方法
ⅰ）ネーミング時における回避
　商標採択時において造語的要素が強い商標を採択するなど普通名称化しにくいネーミングをするのが最も簡易な方法です。しかし、ネーミング開発においていわゆるウィークマーク（造語的要素が薄く既存語である商標）を採択せざるを得ない場合もあります。また、ウィークマークでなくとも新商品がかつて市場になかった画期的なものであれば普通名称化する虞は十分にあります。したがって、ネーミング開発の結果、普通名称化しやすいネーミングに決定しても、そのことのみを理由に当該商標の採択を躊躇すべきではなく、ⅱ）以降の普通名称化防止方法で対処すべきです。
ⅱ）積極的な商標登録表示と普通名称の併記
　　極めてオーソドックスですが重要な方法です。通常はロゴマークの右下部若しくは右上部に○Ｒマークを表示するのが一般的ですが、商標法は登録番号も付すよう努めるべきとしています。○Ｒマークを付すことでロゴのデザイン全体の美観が損なわれる、あるいは意図したメッセージが伝達しにくくなることもあるため、○Ｒマークを付すことができない場合もあります。要は当該商標が商標登録されていることを取引者、需要者に広く知らしめることができればよいのですから、商品の包装や取扱説明書あるいはウェブサイトにおいて当該商標が商標登録されていることを記載すればよいのです。例えば、ウェブサイトにおいて自社が所有する登録商標を一覧表示してもよいでしょう（ただし、自社内の他ブランドとの関連性を隠したいような自社ブランドがある場合などは戦略的に商標登録表示をしないことも検討すべきです。）
　　この際重要なのは登録表示をするとともに当該商品の普通名称を併記することです。これにより、需要者、取引者は当該商標が登録商標であること、そして、当該商品の普通名称は登録商標とは別に存在することを知り、当該商標が“ブランド”であることを認識してくれるでしょう。そして、その認識は“ブランド”を創造するものとなります。
ⅲ）商標使用の監視と是正
　　商標の普通名称化は往々にして取引者、需要者により引き起こされるものであるため、商標権者は市場において取引者等が自社の登録商標を商品の慣用的な名称として使用していないかを常に監視しなければなりません（市場監視方法については「自社所有ブランドの監視」を参考にして下さい）。また、新聞、書籍、辞書等に当該商標が掲載されることは商標の普通名称化に大きく影響するためこれについても監視が必要です。特に一般辞書や業界専門用語辞典に当該商標が掲載された場合は普通名称化している可能性がありますので注意が必要です。この場合は、出版社に該当部分の削除を求めるか、自社の登録商標である旨を記載するよう要求すべきです。

（４）税関輸入差止制度の利用
　税関における輸入差止制度とは、知的財産権（商標権、意匠権、著作権、特許権等）を侵害する貨物が輸入されようとする場合に、税関がその輸入を差止めるために、商標権者等が、税関に対し、その権利内容や侵害の事実を疎明するために必要な証拠を提出し、当該貨物の輸入を差止めるよう申し立てる制度です。国内市場において、既に自社ブランドの模倣品が多数出回っている状況下では有効な手段となります。この申立が受理されることにより、輸入申告された貨物又は郵政官署から呈示された国際郵便物の中から、税関が輸入差止申立にかかる貨物を発見したときは、当該貨物の侵害認定手続を執り、侵害が認定された際は、輸入の差止めが行われ当該侵害品が国内市場に流通することを未然に防止します。
　実務の話をしますと、税関の職員は、権利者が申立時に提出した資料に基づき侵害貨物の発見をするわけですから、申立時に提出する疎明資料やその他の任意添付書類の書き方が非常に重要になります。特に申立て時に提出する侵害を疎明するための資料は、認定手続きが開始されたときに税関が侵害の成否を判断するための重要な資料になるので、入念な準備が必要になります。申立ての事前に自己に有利な判定書や鑑定書を入手するのがベターです。
　なお、従来は侵害品の輸入差止がされてもその侵害品の輸入者の名称や住所情報が商標権者等に提供されなかったため、せっかく侵害品の輸入を阻止してもその輸入者が特定できず、商標権者等が輸入者に対して直接措置をとることができませんでした。しかし、近時の法改正により商標権者等に侵害品の輸入者の名称や住所情報が提供されるようになります。これにより、商標権者と輸入者で直接交渉が可能となり、輸入者に対しての損害賠償請求等も容易になります。